「移動」はAIに、「運転」は人間に。サンフランシスコで自動運転タクシー「Waymo」を使って感じた、これからの車社会
更新日: 2026/6/29投稿日: 2026/5/29
自動運転
日本でも「自動運転」というキーワードが、ニュースや特集で取り上げられるようになりました。一方で、米国・サンフランシスコでは、すでに運転手のいないタクシー「Waymo(ウェイモ)」がごく当たり前のように街を走っています。
Waymoとは、Googleの兄弟会社が運営する自動運転タクシー(レベル4)です。アプリで呼べば、運転手のいない車が目の前まで迎えに来てくれるという光景が、現地ではすでに「日常」となっています。
そんなWaymoをサンフランシスコ出張中に実際に体験したのが、Carconnectを運営する株式会社シンカ・代表の江尻 高宏です。今回は、江尻に「アプリで呼んだ瞬間」から「降車まで」、そして「日本にWaymoが来たら」まで、試乗体験の全貌を伺いました。
サンフランシスコの街中で見た、運転手のいない一台の車

――まず、Waymoに乗ってみようと思われたきっかけを教えていただけますか?
江尻:サンフランシスコ出張中、私はタクシーで移動していたのですが、ちょうど横の車線を、誰も乗っていないWaymoが走り抜けていったんです。運転手も、乗客もいない、完全に無人の車。これにはちょっとびっくりしまして。「せっかくサンフランシスコまで来たんだから、これは乗ってみるしかない」とその場で決めました。
――実際にWaymoを呼ぶ流れは、どんな手順だったのでしょうか?
江尻:呼ぼうと思ってから乗車するまでの流れも画期的でした。免許証のコピーなどの、面倒な手続きが何もありません。アプリをダウンロードしてクレジットカードを登録して、乗車地と目的地を選ぶだけで呼べるんです。あまりにも簡単すぎて、「え、これで本当に来るの?」と思いました。スマホネイティブの世代じゃない私でも、迷わず使えました。
――目の前に「誰もいない車」が止まった瞬間は、どう感じられましたか?
江尻: 「わぁ、すげー!」と、自然に声が出てしまいました(笑)。地図モードで近づいてくるのは分かるのですが、本当にスーッと自分の前に止まるのを見ると、ワクワクが止まりませんでしたね。
「むしろ、人間より見えていた」。車内ディスプレイが実現する、走る前からの安心感

――車内に乗り込んでみての第一印象について教えてください。
江尻: まず驚いたのが、ディスプレイが2枚あったことです。後席用の中央ディスプレイは、音楽や室温などのコントロール。そしてもう1枚、助手席の背面には、いま、この車が周りをどう見ているかをリアルタイムで表示する「Waymoの目」とも言えるディスプレイがありました。
――その「Waymoの目」というのは、具体的にどんな表示なのでしょうか?
江尻: 車の上にあるセンサーから360度を同時に見ているので、走っている他の車、停まっている車、対向車線の車、そして歩道にいる人までが、リアルタイムでディスプレイに描かれていきます。
さらに「次はここに進みます」という進路まで表示されるなど、もはや人間以上に周りが見えている印象でしたね。

――走行中の安心感はいかがでしたか?
江尻: これがすごく大きかったんです。「自動で運転してくれている」だけだと、不安になる人もいるかもしれません。でも、「この車は今こう見えているから、こう動きます」が共有されると、安心感がまったく違います。
人間が運転するタクシーで安心する理由って、運転手が前を見ているのが分かるからですよね。それと同じ理屈で、Waymoが何を見ているかが分かるから、安心して任せられます。ディスプレイを見た瞬間から、不安はありませんでした。
夕方のサンフランシスコでも「すべてが安定している」。人間タクシーにはない走行品質
――サンフランシスコの夕方は交通量が多そうな印象ですが、実際の走行はいかがでしたか?
江尻: まさに夕方の混雑する時間帯に乗ったんですが、信号、車線変更、右折・左折、路肩への一時停止など、どれをとってもスムーズでした。気になることはまったくないですし、むしろ「ヒヤッとする場面をつくらない」んですよ。前の車が止まる気配を見せれば早めに減速するし、車間距離も常に適切に保たれている。設計自体が、危険な状況を生まないようになっているんです。
――人間が運転するタクシーと比較して、優れていると感じた部分はありましたか?
江尻: 「すべてがていねいで安定している」と感じました。人間が運転するタクシーだと、どうしても荒い運転になることがありますよね。私が先日乗ったタクシーは、車線変更しようとしたら後ろからクラクションを鳴らされて、慌てて戻ろうとしたら今度は前が止まっていて急ブレーキを踏むなど、危ないと感じることがありました。
でも、Waymoは360度のセンサーで完全に見えているから、危ないと判断したら車線変更そのものをしない。クラクションを鳴らされることも、急ブレーキを踏むこともない。「すべてが安定している」としか言いようがないんです。
AIにできない、人間ドライバーが持つ価値とは

――逆に、Waymoにはできなかった、「人間のドライバーじゃないとできない」と感じた部分はありますか?
江尻: これは、2つあります。1つは、人間ならではの「遊び心」です。Waymoは、目的地を入れたら最短ルートを綺麗に走ってくれますし、間違いもありません。
一方で、人間のドライバーは「ここちょっと混んでるから、遠回りだけどこっちの方が早く着くと思うよ」とか、「今日は梅が綺麗だから、川沿いを少し寄り道して行きませんか?」と言ってくれることがあります。このような「お客さんとのコミュニケーション」や「無駄を楽しもうという気持ち」は、まだ人間にしか出せないと感じました。
――もう1つは何でしょうか?
江尻: もう1つは「偶然の出会いから生まれる会話」ですね。実は先日、鳥取空港に向かうタクシーで76歳の運転手さんに乗せてもらったんです。話してみたら、自転車を26台持っていて、車のエンジンも全部触れる方でした。「今の子供たちは、車がどうできているか知らないでしょうね」「キャブレターを触る楽しさは、今の車ではもう味わえない」という話で盛り上がったんです。
他愛のない運転手さんとの会話でしたが、これが極上な時間だったんです。調べようと思って出てくる情報じゃないし、計算もロジックもない、偶然の出会いから生まれる会話は、人間ドライバーじゃないと絶対に生まれません。Waymoが優秀なのは間違いないけれど、こういう「偶然の価値」は、人間にしかつくれないと、改めて思いました。
「移動」はAIに、「運転」は人間に。経営者として見えた、これからの車社会
――もし、明日から日本でWaymoが走り出したら、私たちの暮らしや車社会はどう変わると思われますか?
江尻: まず、移動が超効率化されるでしょうね。気軽に呼べて、目的地まで安全に運んでくれる。であれば、移動時間そのものを別のことに使えるようになります。仕事をしてもいい、本を読んでもいい、英語を勉強してもいい。移動時間の使い方が、根本から変わると思います。しかも、人間運転のタクシーと比べてコストも圧倒的に安くなります。
――どんな地域や場面で、特にインパクトが大きいと思われますか?
江尻:特に地方こそ、需要があると思っています。バスもタクシーもない、移動手段が限られた地域にWaymoのような自動運転タクシーが走れば、人の移動が一気に自由になります。安全に運んでくれるので、子供を塾に送り届ける、なんて用事もなくなるでしょうね。
あと、長距離移動も変わるかもしれません。東京から大阪まで、新幹線でも飛行機でもなく「Waymoで宴会しながら行こうよ」というような移動の使い方が、絶対に出てくると思います。
――では、車そのものの存在意義は、これからどう変わっていきそうでしょうか?
江尻: これは明らかに、「移動」と「運転」が分離していくと思います。移動手段としての車であれば、自動化が進んだ方が圧倒的に効率的です。
その状況で車に乗る理由は、やはり「車が好きで運転が楽しいから」という形になると思います。運転を楽しみたい人が車を運転するという形に、需要が尖っていくのではないでしょうか。
――確かに、好きな人が運転を楽しむという形にシフトしていきそうですね。
江尻:Waymoを見ていると、移動のために自分で車を運転する必要性は、確実に薄れていくと感じます。
となると、車は趣味としての色がより濃くなると思うんです。「車をいじるのが楽しい。だから運転も自分でやりたい」というようなイメージです。将来的にはマニュアル車が復活してギアチェンジを楽しむ、なんてことになるかもしれませんね。改めて、車は原点回帰していく可能性が、大いにあると思っていますよ。
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