EV(電気自動車)に使われているモーターの種類や仕組みを徹底解説|メリット・デメリットも合わせて紹介
更新日: 2025/11/30投稿日: 2025/11/28
EV
「EVのモーターって、普通のモーターと何が違うの?」
「エンジン車より加速が良いって聞くけど、具体的にどういう仕組み?」
EVモーターが重要な部品であることは、耳にしたことはあると思います。ですが、具体的にどんな種類があり、どうやって動いているのか詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか。
現在のEVモーターには代表的なものが3つあり、それぞれに異なるメリットがあります。特徴を知ることで、EV選びの視点がガラリと変わるかもしれません。
そこでこの記事では、EV用モーターの基礎知識からガソリンエンジンと比較した7つのメリット、今後の課題までを徹底解説します。
記事を読めば、自分に合ったEVを見つける際の判断材料を得られます。ぜひ最後までご覧ください。
EVに使われているモーターとは?主要な3種類を紹介

2025年現在、市販されているEVに搭載されているモーターは、主に以下の3種類です。
- 永久磁石同期モーター(PMSM)
- 誘導モーター(IM)
- 電巻界磁同期モーター(EESM)
1. 永久磁石同期モーター(PMSM)
永久磁石同期モーター(PMSM)は、現在のEVにおいて最も主流となっているモーターです。
PMSMとは「Permanent Magnet Synchronous Motor」の略称で、日産リーフや多くのトヨタ車などに採用されています。
最大の特徴は、ローターにレアアースを使った永久磁石を埋め込んでいる点です。周囲のコイルが作る磁界の回転に合わせて、ローターの永久磁石が磁力で引き寄せられることでモーターが回転します。
PMSMのメリットは、圧倒的なエネルギー効率とパワー密度です。とくにストップ&ゴーが多い市街地での性能に優れており、小型・軽量ながら強い加速が可能です。
一方で、ローターに埋め込むレアアースが高価であることが大きな課題です。レアアースの供給リスクに価格が左右されやすく、車体価格に大きく影響しています。
2. 誘導モーター(IM)
誘導モーター(IM)は「非同期モーター」とも呼ばれるタイプです。IMとは「Induction Motor」の略で、テスラの初期モデルやアウディなどが採用しています。
IMには、レアアース由来の高価な磁石は使われていません。代わりに、アルミニウムや銅でできた「かご型」の導体がローターに入っています。
周囲の磁界に応じてローター自体に電気が流れると、かご型のローターが電磁石となって、磁界を追いかけるようにする仕組みです。
IM最大のメリットは、レアアースをいっさい使用しない点です。レアアースの供給リスクによる価格変動がないため、コストを安く抑えられます。
ただし、PMSMと比較するとエネルギー効率やパワー密度がやや劣る傾向があります。同じ出力を出そうとするとIM自体が大型化・重量化しやすいため、小型車よりも大型のモデルや、コスト重視のグレードで採用されるケースが多いモーターです。
3. 電巻界磁同期モーター(EESM)
電巻界磁同期モーター(EESM)は、近年注目を集めているモーターです。
EESMは「Externally Excited Synchronous Motor」の略称です。大手メーカーでは、日産アリアやBMWなどに採用されています。
PMSMと同様の仕組みで回転しますが、ローターに永久磁石を使わず、電磁石(コイル)を使用しています。外部からブラシなどを通じてローターに電気を送り、磁力を発生させて回転させるのが特徴です。
EESMのメリットは、走行状況に合わせて磁力をコントロールできる点です。強力なパワーが必要なときには磁力を最大にし、高速道路では電気を止めて抵抗をなくすことで、全域で効率よく走行できます。
デメリットは、ローターへ電気を送るために「ブラシ」という部品が必要で、構造がやや複雑な点です。また、かつてはブラシの摩耗によるメンテナンス性の低さが懸念されていましたが、こちらは技術革新により解決されつつあります。
EVモーターが自動車を動かす仕組み

ここからは、EVモーターが電力を車体に伝える仕組みを詳しく見ていきましょう。
基本的な仕組みは普通のモーターと同じ
EVモーターの原理は、理科の授業で習う「フレミングの左手の法則」と同じです。 磁界の中で電流を流すと磁力が発生し、モーターが回転します。
ただし、モーターは毎分1万回転以上という超高速で回るため、そのままではタイヤにつなげません。 そこで、モーターとタイヤの間に「減速機(リダクションギア)」という歯車を挟み、回転数を落とすと同時に力を増幅させて伝えています。
この「モーター+減速機」というシンプルな構造が、EV特有の滑らかな走りを生み出しています。
EVでは直流電流を交流電流に変換する
EVバッテリーに蓄えられている電気は「直流(DC)」ですが、高性能なEVモーターのほとんどは「交流(AC)」で動きます。
つまり、そのままでは電流の規格が異なるため、モーターに電気を伝えられません。
そこで活躍するのが「インバーター」という装置です。インバーターは、バッテリーの直流電気を交流に変換してモーターに送ります。
さらに、インバーターは電気を0.01秒単位で精密に制御し、モーターに伝える機能を持ちます。このインバーターの働きのおかげで、ドライバーは自分の手足のように、EVを操ることが可能なのです。
ブレーキ時にバッテリーへ電力を再充電する
EVには「回生ブレーキ」という機能があります。回生ブレーキの仕組みは、以下のとおりです。
- アクセルから足を離す
- インバーターが電力供給をストップする
- タイヤは惰性で回り続ける
- 回り続けるタイヤがモーターを回す
- モーターが逆回転しブレーキをかける
- 逆回転した際に電力を生み出す
- インバーターが受け取った電力をバッテリーに戻す
回生ブレーキが起動すると、アクセルを踏んだときとは逆の動作が起こります。結果、モーターが生み出した電力はバッテリーに再充電される仕組みです。
この回生ブレーキにより、EVは驚くほど高いエネルギー効率を実現しています。
EVをモーターで動かすメリット7選【ガソリンエンジンと比較】

ガソリンエンジンと比較した際、モーター駆動には構造的・性能的に圧倒的なメリットがあります。ここでは代表的なメリットを、以下の7つ紹介します。
- 加速が圧倒的にスムーズ
- エネルギー効率が非常に高い
- 構造がシンプルでメンテナンス性が高い
- 騒音や振動が少ない
- 減速時のエネルギーを無駄にしない
- トランスミッションをほぼ必要としない
- 排気ガスを出さない
1. 加速が圧倒的にスムーズ
EVモーターは、電気を流した瞬間に最大トルクで加速します。エンジンのように回転数が上がるのを待つ必要がないため、信号待ちからの発進などで鋭い加速が可能です。
また、アクセル操作に対するラグがほぼありません。トランスミッションも搭載していないため、変速時に発生する振動(変速ショック)を受けずに済みます。
これらの快適な走行性能は、EVならではと言えるでしょう。
2. エネルギー効率が非常に高い
EVとガソリン車では、エネルギー効率に決定的な差があります。簡単に、モーターとエンジンのエネルギー効率を表にまとめました。
| 項目 | エネルギー効率 | 備考 |
| EVモーター | 90%〜95% | ほとんどを走行エネルギーに変換できる |
| ガソリンエンジン | 30%〜40% | 6割以上を「熱」として捨てている |
エンジンは燃料の半分以上を熱として捨てていますが、モーターはエネルギーをほぼ無駄なく車体に伝えます。
高いエネルギー効率は、燃料費(電気代)の安さも相まって、EVのランニングコストを支える大きな要因です。
3. 構造がシンプルでメンテナンス性が高い
EVのモーター周りは、シンプルな構造をしています。そのため、ガソリンエンジンに必要な、以下の部品交換がいっさい不要です。
- エンジンオイル
- オイルフィルター
- スパークプラグ
- タイミングベルト/チェーン
- マフラー など
また部品点数が少なく、機械的な故障リスクも低い点も魅力です。長期的な維持費を大幅に抑えられるため、メンテナンス性に加えてコスパも高くなっています。
4. 騒音や振動が少ない
モーターは燃料を燃やさないため、原理的にほぼ無音・無振動で走行が可能です。
車内は非常に静かで、同乗者との会話や音楽をクリアに楽しめます。また、騒音が少ないので、早朝や深夜の走行においても、神経質になる必要がありません。
あまりに静かなため、現在のEVでは低速走行時に音を発生させる「車両接近通報装置(AVAS)」の搭載が義務化されているほどです。
5. 減速時のエネルギーを無駄にしない
EVのモーターは「回生ブレーキ」システムにより、減速時に捨てるはずだったエネルギーを回収して再利用が可能です。
とくに、ストップ&ゴーが多い日本の市街地では、絶大な効果を発揮します。回収効率は最大70%とも言われており、最大航続距離に大きく寄与します。
また、回生ブレーキはブレーキパッドを使用しないため、メンテナンスコストの削減効果も抜群です。物理ブレーキの使用頻度が減ることで、ブレーキパッドの交換が10万km以上交換不要だったケースも見られます。
6. トランスミッションをほぼ必要としない
EVモーターは低回転から高回転まで広範囲でトルクを出せるため、トランスミッションがほぼ不要です。
実際に主要EVの多くは、トランスミッションを搭載していません。これにより、変速ショックのない加速と、部品コスト・重量の大幅な削減を実現しています。
トランスミッションは、自動車部品のなかでも故障率が高めの部位です。これがないEVの構造は、メンテナンス性の向上にも寄与しています。
7. 排気ガスを出さない
EVの駆動系にはマフラーがなく、走行中にCO2などの有害物質を一切排出しません。そのため、EVが普及すれば、都市部の局地的な大気汚染に対応できるとされています。
なかには「製造時や発電時にCO2を排出するから環境に優しくない」という意見もあります。
しかし製造時のCO2排出を含めても、EVは総走行距離が伸びるほどガソリン車よりトータルのCO2排出量は少なくなることが多くの研究で示されています。
電気自動車の発電及び電池製造に係る CO2 排出量は、ガソリン車の走行及び燃料製造に係る CO2 排出量を下回る
引用:環境省
EVには再生可能エネルギー由来の電力も利用できるため、今後の技術革新で環境性能はさらに高まります。
将来的に発電における再エネ比率が高まれば、EVの環境優位性はより確実なものとなるでしょう。
EV用モーターのデメリット2選

EV用モーターには、以下2つのデメリットも存在します。
- 製造がレアアースに依存している
- 高速走行時の電費が悪い
1. 製造がレアアースに依存している
EVに最も使われている永久磁石同期モーターの製造には、ネオジムやジスプロシウムといったレアアースが不可欠です。
現在、これらレアアースの産出・精製は中国に偏っています。そのため、価格高騰や供給ストップといった地政学リスクを常に抱えています。
今般、次世代自動車や風力発電の普及に伴い、中国への一国依存度が高い
ジスプロシウムの需要ポテンシャルの高まりが顕在化していることに加え、
新興国における消費量の急増に伴い、チタン等のレアメタルについても事業
環境が激変している。引用:経済産業省資料
この問題を解決すべく、自動車メーカーやサプライヤー各社はレアアースの使用量が少ない、あるいは使わないモーターの開発を急いでいるのが現状です。
2. 高速走行時の電費が悪い
高速道路などで走行する際、基本的にアクセルは踏みっぱなしです。この際、電力を回収する役割を持つ回生ブレーキが起動しないため、電費が悪くなります。
また、ガソリン車はトランスミッションを持つため、高速道路でもギアを上げることで効率よく走行が可能です。一方、EVは変速ができないため、常に高回転でモーターを回し続ける必要があり、電力消費が大きくなります。
この課題を解決するには、現在主流のPMSMそのものの仕組みを見直す必要があります。
EV用モーターに関するよくある質問

EV用モーターに関するよくある質問をまとめました。
「自動車メーカーの内製」と「大手サプライヤー」に二分されています。
テスラやBYD、日産などは自社でモーターを内製しており、これらが市場の大きなシェアを占めています。
一方、モーターを外販するサプライヤーとしては、日本のNidec(日本電産)が世界トップレベルです。
モーターの種類や出力、冷却方式によって、重量は大きく異なります。
ですが、ガソリンエンジン+トランスミッションの組み合わせよりははるかに軽量です。
具体例として、ヒョンデの「KONA(コナ)」のガソリンモデルとEVモデルを比較すると、それぞれ以下のようになります。
・ガソリンモデル:約130kg(推定)
・EVモデル:約80kg前後(参考値)
EVの車体全体が重い原因は、駆動系ではなく、バッテリーが原因です。
EVモーターの回転数は、少なくとも1万回以上です。
一般的なガソリンエンジンの回転数は、速くとも約6,000~8,000rpmほど。一方、一般的なEVモーターの最大回転数は、約12,000~18,000 rpmを誇ります。
また、テスラのような速度が売りのモデルの中には、2万rpmを超えるモデルも存在します。
この凄まじい回転数こそが、EVが多段トランスミッションを必要としない最大の理由です。
【まとめ】EV用モーターは今後ますます技術革新が進む

EVのモーターは、バッテリーから生み出された電気を動力として使う「筋肉」の役割を持ちます。モーターが強力かつ高性能になるほど、EVの性能は劇的に向上するでしょう。
しかし一方で、駆動系全体の価格の高さや製造の難しさなど、多くの課題を抱えていることも事実です。この課題を解決すべく、各自動車メーカーやサプライヤーは、日々研究・開発を行っています。
今後ますますモーターの開発が進めば、EVの普及に大きく寄与するのは間違いありません。EVの購入を考えている方は、ぜひ新型モーターの情報もチェックしてみてください。
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