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ヨーロッパは電気自動車(EV)の普及に失敗したって本当?現状の数値データを解説

更新日: 2025/10/1投稿日: 2025/9/26

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ヨーロッパは電気自動車(EV)の普及に失敗したって本当?現状の数値データを解説

「ヨーロッパのEV普及って失敗したって聞いたけど、本当なの?」
「EVの販売が減ってるらしいけど、これから車を買うときにEVは避けた方がいいの?」

ヨーロッパでEVの販売が減速しているというニュースを見て、混乱している方も多いのではないでしょうか。一方で中国製EVが躍進しているという情報もあり、実際のところどうなっているのか判断に迷いますよね。

ヨーロッパのEV市場は「失敗」ではなく「伸び悩み」の状態です。普及率は15.4%と日本やアメリカよりも高い水準にありますが、2035年の目標達成には課題が山積しています。

この記事では、ヨーロッパのEV市場の現状を数値データに基づいて解説します。

  • ヨーロッパのEV普及率の実態と数値データ
  • EV販売が減速している3つの具体的な理由
  • ヨーロッパの主要自動車メーカーの最新EV戦略

ぜひ最後までお読みください。

ヨーロッパの電気自動車の普及率(市場シェア率)は15.4%

欧州自動車工業会(ACEA)の記事によると、ヨーロッパの電気自動車市場シェアは、2025年5月時点で15.4%となっています。この数値は、EU全体での新車登録台数に占めるバッテリー式電気自動車(BEV)の割合を示したものです。

EUは2035年までにEV・FCVの普及率を100%にする目標を掲げているため、現状の15.4%という数値から考えると、目標達成には相当な加速が必要な状況です。

一方で、他の主要国と比較すると、ヨーロッパのEV普及率は決して低くありません。日本のEV普及率は約2.57%、アメリカは約8%という状況なので、ヨーロッパは両国を大きく上回っています。

また、EU自動車市場の規模は年間約1,093万台と、日本の約420万台と比べて2.5倍以上の規模を持ちます。この状況下での15.4%は、目標からすると低水準ですが、世界のカーボンニュートラルの視点から見ると低すぎるわけではありません。

以上のことより。ヨーロッパのEV市場を「失敗」と呼ぶのは早計だと言えます。

ヨーロッパで電気自動車が普及しない3つの理由

ヨーロッパでEVの普及が期待通りに進まない背景には、複数の構造的な問題があります。ここでは、特に影響が大きい3つの理由を詳しく見ていきましょう。

ヨーロッパ全体でインフラ整備が進んでいない

EV充電スタンドの整備状況が国によって大きくばらついている点が、ヨーロッパ全体でのEV普及を妨げる最大の要因です。

EY Parthenonの調査によれば、公共充電ポイントの比率は、国によって大きな差があります。最も充電インフラが整っているフィンランドでは13.6%ですが、最下位のマルタでは3.6%にとどまり、約10%もの開きが生じている状態です。

充電インフラの不足は、消費者のEV購入意欲を直接的に下げます自宅に充電設備を設置できないマンションの居住者や、長距離移動が多いドライバーにとって、公共充電スタンドの利便性は購入判断の重要な要素だからです。

インフラ整備が遅れている国では、EVを購入しても日常的な利用に不安が残るため、ガソリン車やハイブリッド車が選ばれ続けているという背景があります。

この地域間格差を解消しない限り、EU全体でのEV普及率向上は難しいでしょう。

車体価格が高い

EVはガソリン車と比較して車体価格が高額になる傾向があり、購入のハードルとなっています。車体価格が高い要因は、バッテリー技術のコストです。走行距離が長いモデルほど大容量のバッテリーが必要となるため、価格が上昇します。

加えて、購入補助金の縮小も価格面での負担を増加させています。ドイツやフランスでは、財政面の理由から補助金が削減または終了し、実質的な購入価格が上昇しました。

さらに、中国製の安価なEVには高額な関税がかけられているケースもあります。欧州ブランドを保護する目的での措置ですが、結果的に消費者の選択肢を狭め、EV全体の普及率低下につながっている側面があるのです。

価格が抑えられるガソリン車やハイブリッド車の需要が根強いのは、こうした経済的な理由によるものだと考えられます。

中古買取価格が安い

EVは新車価格が高い一方で、中古車としての買取価格が低いという問題を抱えています。

主な原因はバッテリーの経年劣化です。リチウムイオンバッテリーは使用年数や充電回数に応じて容量が低下し、航続距離が短くなります。中古車購入者にとって、バッテリー交換の費用負担や性能低下のリスクが大きな懸念材料となるのです。

高額で購入したEVが、数年後には大幅に価値を下げるという経済性の悪さも、普及を妨げる要因となっています。

車を定期的に買い替える消費者にとって、資産価値の目減りは見過ごせない問題です。中古市場での評価が改善されない限り、新車購入への心理的なハードルは高いままでしょう。

ヨーロッパのEV政策の変化

EUはEV販売の伸び悩みを受けて、当初の計画を一部修正する動きを見せています。

もともとEUは、2035年以降にエンジン車の新車販売を全面禁止する方針を打ち出していました。しかし、この厳格な規制に対して自動車業界から強い反発があり、政策の見直しが進められている状態です。

現在は合成燃料(e-fuel)を使用するエンジン車に限り、2035年以降も販売継続が認められる方向で調整されています。合成燃料は再生可能エネルギーから製造される燃料で、走行時のCO2排出量を実質ゼロにできる技術です。この例外措置により、ポルシェなどの高性能エンジンを強みとするメーカーは、既存技術を活かした製品開発を続けられます。

また、ドイツ自動車工業会は、2035年の目標を「エンジン車100%削減」から「90%削減」へと緩和する提案を行っています。現実的な目標設定により、自動車産業全体の収益性を維持しながら脱炭素化を進めることが狙いです。

こうした政策変更は、EV一辺倒ではなく、複数の技術選択肢を認める方向へのシフトを意味します。消費者にとっては選択肢が広がる一方で、EV普及の加速には逆風となる可能性は否定できません。

ヨーロッパの自動車メーカーのEV動向とは

ヨーロッパの主要自動車メーカーは、それぞれ独自のEV戦略を展開しています。ここでは、代表的な5社の最新動向を見ていきましょう。

BMW

BMWは2030年までに販売台数の50%以上をEVにする目標を掲げているなど、EVに対して積極的な姿勢を見せています。

BMWの主力EVモデルは「iXシリーズ」と「i4~i7シリーズ」です。iXはSUVタイプで、車種によっては最大航続距離700km以上を実現しています。i4はセダンタイプのEVで、スポーティな走りとEVの環境性能を両立させたモデルです。

BMWは初期モデルであるi3シリーズから、バッテリーの性能と耐用年数を長く保つことを意識した開発を続けており、常に新しい技術を取り入れています。

メルセデス・ベンツ

ベンツは2030年までに全車EV化を目指していましたが、2024年時点でこの目標を修正しています。

現在は、「2025年までに新車販売の50%をBEVかプラグインハイブリッド車(PHEV)にする」という計画を、「2020年代後半に最大50%」という形に変更して、開発を進めている状態です。(参考:WebCG

代表的なEVラインナップは「EQシリーズ」です。EQS、EQE、EQS SUV、EQE SUVなど、既存のガソリン車ラインナップに対応するEVモデルを展開しています。

特にEQSは、航続距離700km超という長距離性能と、Sクラスにも劣らない豪華な室内空間を両立させたフラッグシップモデルです。このように、高級EV市場でのポジション確立を狙っています。

フォルクスワーゲン

フォルクスワーゲンはグループ全体で、2030年までに欧州販売の70%をEVにする計画を立てていました。しかし、昨今の販売状況を踏まえて、目標を修正する可能性があるとされています。

中心となるのは「IDファミリー」です。、ID.4(SUV)、ID.5(クーペSUV)、ID.Buzz(ミニバン型)など、幅広いニーズに対応するラインナップを揃えています。

価格帯は比較的手頃に設定されていますが、中国製EVの攻勢や補助金削減の影響で販売が伸び悩んでおり、生産調整を余儀なくされている状況も報じられています。コスト競争力の強化が今後の課題です。

ルノー

ルノーは、2035年までに欧州での自動車生産をすべてEVにするという目標を掲げていましたが、現状は「正しい起動にまだ乗っていない」とCEOが発言しています。(参考:Reuters

ルノーは「ルノーEV」という形で、EVの開発を行っています。例えば2024年に発売したルノー5(サンク)は、以前に発売していたモデルをEV化する形で制作されているなど、注目を集めました。

今後もEV普及に向けて、開発を進めていくと予想されます。

ステランティス

ステランティスは2022年に、EVの世界販売を2030年に500万台とする計画を発表しました。

グループにはプジョー、シトロエン、オペル、ジープ、フィアットなど14のブランドが含まれており、それぞれでEVを展開すると発表しています。各ブランドの個性を活かしながら、共通のプラットフォームを使用してコスト効率を高めている点が特徴です。

ヨーロッパでの電気自動車の普及は進んでいるが、伸び悩んでいる状態

ヨーロッパのEV市場は「失敗」ではなく、「伸び悩み」の段階にあります。現在の普及率15.4%は、日本やアメリカと比較すれば高い水準です。しかし、2035年に100%という目標に対しては、加速が足りません。

ヨーロッパのEV市場は長期的には拡大する方向ですが、その道のりは当初の想定よりも緩やかになるでしょう。

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