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自動運転の実現に向けての課題とは?さまざまな課題と解決策を紹介

更新日: 2025/9/4投稿日: 2025/8/27

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自動運転の実現に向けての課題とは?さまざまな課題と解決策を紹介

自動車の自動運転が実現すれば、交通事故が減少する、公共交通機関の運転手不足の問題が解決するといった、さまざまなメリットがあると期待されています。

しかし、本格的な自動運転が実現して、社会に広く普及するためには、技術的にも社会的にも、解決するべき課題が多数存在します。例えば、自動運転システムの判断力不足が原因で事故を起こす可能性がある、事故を起こしたときの法的責任が誰にあるのか、などです。

本記事では、自動運転の実現・普及に向けての課題と解決策を紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。

自動運転とは?概要と現状を紹介

自動車の自動運転とは、人間に代わってシステムが他の自動車や歩行者、障害物などの検知や運転操作の判断を行い、自動車を操縦することです。

自動運転には0から5までのレベルが定められています。数字が大きくなるほど、システムの運転に対する介入が大きくなります。

引用:国土交通省

レベル1やレベル2の自動運転機能は、現在日本国内で市販されている乗用車でも多くの車種に搭載されています。ただし「自動運転」と呼ばれることはあるものの、実際には人間の運転操作を支援する機能です。運転を主体的に行うのはあくまで人間と定められています。先行車の存在を検知できなかったので追突したといったケースでも、事故を起こした責任は運転者にあります

障害物を検知したときに自動的にブレーキ操作を行う衝突被害軽減ブレーキや、先行車への追従走行を行う定速走行・車間距離制御装置(ACC)などが、レベル1~2に相当する機能です。

レベル3以上の自動運転では、運転の主体がシステムになります。ただし、レベル3の機能は、自動運転が行える状況が渋滞中の高速道路などに限定されていて、システムからの要求があれば運転手が運転操作に戻る必要があります。

国内で市販されたレベル3の自動運転機能を備えた乗用車は、2021年に100台限定で販売されたホンダのレジェンドのみで、現在は購入できません。

そして、レベル4以上の自動運転が、人間の運転への介入を前提としない自動運転です。レベル4の自動運転は実現してはいますが、地域や業種を限定してのサービスにとどまっています。日本では路線バスなど、米国や中国では主に無人運転のタクシーとして、レベル4の自動運転が行われています。

乗用車のレベル4の自動運転は2025年8月時点では実現していません。また、レベル5の自動運転は、いずれの国においても実現していません。

本記事では、乗用車におけるレベル4以上の自動運転の実現・普及に向けての課題を紹介します。

なお、自動運転のレベルについては、以下の記事もご確認ください。

自動運転のレベルってなに?それぞれの車種一覧やレベル5の実現可能性について言及

投稿日: 2025/5/31更新日: 2025/9/15

自動運転のレベルってなに?それぞれの車種一覧やレベル5の実現可能性について言及

完全な自動運転実現に向けての課題

1. 技術的な限界

完全な自動運転の実現のためには、現在のセンサーの検知性能や、AIの判断能力などの技術的な限界をクリアしていく必要があります

自動運転を行う手法の根幹は、センサーで他車などを検知して、AIによる判断で運転操作を行うことです。センサーの検知性能には技術的な限界があるので、技術の進歩によって限界を突破して、より精度を高めていく必要があります。

また、AIの判断能力にも限界があります。AIの判断能力は進歩し続けていますが、それでも予期できない事象や珍しい事象において、適切な判断ができるのか、人間の運転手ならば行わないような判断をして逆に被害を拡大させることはないのか、といった不安があることは否めません。

また、乗員や周辺の通行人の負傷がどうしても避けられないような場合に、誰を助けることを優先する判断をAIに行わせるのかといった倫理的な問題も想定されています。いわゆる「トロッコ問題」です。

加えて日本における自動運転の課題として、日本の道路は狭い道や歩行者の通行が多い道などが多く、自動運転が特に難しい環境となっていることがあげられます。また、日本は世界的に少数派の左側通行の国なので、右側通行の国での技術開発の成果などをそのままでは活用できない点も、自動運転の実現にとっては不利です。

2. システムダウンやサイバー攻撃のリスク

完全な自動運転を行うシステムは、技術的に相当高度で複雑なシステムになると考えられます。運転システムがトラブルを起こしてダウンしてしまったときに、自動車を安全に制御できるのかが課題です。

自動運転が普及した社会では、自動車の通行をコントロールする管制システムの導入が想定されます。管制システムがダウンすると運転が不可能となり、大きな社会的混乱を招く可能性があります。

そして、自動運転車はネットワークに接続して、管制システムとの通信を行うなどさまざまな情報を送受信することが前提です。ネットワークを通じてサイバー攻撃を受けた自動車が、危険な運転を行ったり、盗難されたりする可能性が否定できません

3. インフラ整備の必要性

自動運転が普及した社会の実現には、手動運転の時代には必要がなかったインフラを整備する必要があります。

自動車に搭載されたセンサーやカメラによる検知だけで、完全な自動運転は困難です。例えば、道路上の白線が消えかかっていれば車線の検知が困難になります。木が生い茂っていて標識が隠されていたら見落としてしまいます。

そのため、あらかじめ自動車が走行する道路に関する高精度の地図(3次元地図)といった情報を持っておく必要がありますが、高精度の地図の作成や維持管理にかかる労力が膨大になり、自動運転の普及の妨げになることが懸念されます。

また、自動車と地上の間で情報を送受信するための通信インフラやデータセンターの整備も必要です。

4. データ通信量が多すぎる

自動運転に関する状況判断などのタスクは、自動車に搭載されたハードだけで処理するには重すぎるケースも想定されます。そこで、クラウドにデータを送信し、処理結果を自動車に送る方式が検討されていますが、データ通信量が莫大になることが課題です。

また、処理を行う過程で遅延が発生すると考えられます。仮に危険な状況に陥った時の判断が数秒単位で遅延するようでは、判断の遅れが致命的な事態を招いてしまうでしょう。

5. 法整備の必要性

自動車の運転に関する法律は、人間が運転することが前提だった時代に定められたものなので、自動運転の実現を見据えた法改正が必要です。

例えば自動車運転処罰法の第5条には「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。」と書かれていて、人間の運転手の存在が前提となっています。また「自動車の運転上必要な注意」の定義は具体的ではなく、法律の条文とAIの判断基準とを、どのように整合させるのかも課題です。(参考:e-GOV法令検索

自動運転車が事故を起こした場合の事故の責任を誰が負うことになるのかも課題となっており、議論が行われています。

それから、自動運転が本格的に普及した社会では、様々な国で開発されたシステムを搭載した自動運転車が、国境を越えて走行することになるので、国際的なルールの制定も不可欠です。

自動車に関連する国際的な条約として「ジュネーブ道路交通条約」があります。条約の第8条には「車両にはそれぞれ運転者がいなければならない」「運転者は、常に、車両を適正に操縦しなければならない」「安全のために必要な注意を払わなければならない」などと記されています。

自動運転に関する国際的なルール作りのためには、条約の改正または新たな条約が必要になることは明らかです。(参考:外務省 道路交通に関する条約1

6. 自動運転の社会的受容性の醸成

今でも「自動運転は怖い」というイメージは持たれています。自動運転が受け入れられるように社会を変えていく必要があります

自動運転が怖いと思われるのは、自動運転車がどのような判断を行って運転をしているのかが、歩行者や他の車の運転手からわかりづらいことが一因だと考えられます。自動運転に関する技術の情報公開や、具体性のある法律の整備が、自動運転に対する社会的な理解の増進を助けることでしょう。

特に、自動運転だから起きたという事故は、社会への受け入れを困難にしてしまいます。
例えば、2023年には米国でGMクルーズの運行していた無人運転タクシーが、別の自動車が起こした事故の被害者を、自車で約6m引きずるという事故が起きました。

この無人運転タクシーは、直ちに停車せずに路肩に寄せてから停車するという、人間ならばまず行わないような判断をして事故の被害を拡大させたのです。事故がきっかけとなり、GMクルーズは最終的に、自動運転タクシー事業から撤退しました。
(参考:クルーズ、無人タクシー950台回収 歩行者引きずり重傷負わせる | Forbes JAPAN

自動運転を実現・普及させるためには、GMクルーズのタクシーが起こしたような事故が発生する可能性を、極限まで低下させる必要があるでしょう。

自動運転の課題解決に向けた取り組み

1. 自動運転を行うAIの判断力向上

自動運転の判断を行うAIの判断力を向上させるために、開発が続けられています。

AIは判断力を「学習」によって向上させられます。例えば、センサーが捉えた物体が何なのかを、人間が入力して区別させる学習方法が機械学習です。さらに、人間の入力を省略して、AIが自ら物体の特徴を見つけ出して推論により区別を行うのが深層学習(ディープラーニング)です。

深層学習は、これまで人間が持っていなかった判断基準の発見にもつながるとして、期待が高まっています。

また、珍しい事象においてもAIが判断をできるようにするために、シミュレーションを充実させるという手法が考えられています。特に近年の技術の進歩が著しい生成AIを活用すれば、シミュレーションを行う状況を数多く生み出して、自動運転のAIの訓練を行うことも可能でしょう。

2. サイバー攻撃に対するセキュリティの向上

自動車へのサイバー攻撃を防ぐために、サイバーセキュリティとソフトウェアのアップデート基準が適用される自動車の範囲が順次拡大されています。2026年5月1日までには、国内の全ての新車に適用されます。言い換えると、2026年までに全ての新車はサイバー攻撃対策を行うことが必須になるということです。(参考:国土交通省

また、2021年にはクリエイターズネクスト(本社:東京都港区)という会社が、AIの特許技術を活用して、自動運転車のセキュリティー防御技術における世界一を達成しました。今後、よりよいAIが開発され、サイバー攻撃への対策が強化されていくと期待されます。
(参考:クリエイターズネクストがAIの特許技術によるPoCで 自動運転車のセキュリティー防御技術 世界一を達成

3. データ通信量が多すぎて処理が遅延する課題の解決

自動運転に必要なデータ通信や処理にかかる時間を短縮するために、エッジコンピューティングという手法が検討されています

エッジコンピューティングとは、自動車からデータを送るときに、近くに設置されているエッジサーバーに送って、データの処理や分析を行う方法です。加工したデータのみをクラウドに送ることで、クラウドにアップロードする際の遅延を少なくし、データ処理を高速化します。
(参考:エッジコンピューティングとは?IoTの活用事例も解説 | NECソリューションイノベータ

4. 法整備

日本においても、自動運転に関する法整備は徐々に進められており、2023年4月より、道路交通法においてレベル4の自動運転が解禁となりました。ただし、レベル4はバス・タクシーや物流業界が対象という想定です。乗用車におけるレベル4の実現はまだ先のことだと推定されています。

事故が起きた際の責任については、レベル4の自動運転では人間の運転操作を行うことを前提としていないので、自動車の乗員が事故に関する刑事的な責任を負うことは基本的になくなるでしょう。

ただし民事的な賠償責任については、従来同様自動車の所有者・運行者が賠償責任を負う方向で検討されています。事故の被害者が迅速に救済されるためです。その上で、自動運転システムの不備といった製造者の過失があれば、最終的な賠償金の支払者は、製造者になるでしょう。(参考:国土交通省

自動運転に関する法整備は各国で進められており、国際的な取り決めも行われています。日本が行った提案が国際標準となったケースも複数あります。

【まとめ】自動運転実現までの課題は多いけれども解決に向けて前進中

自動運転の実現のためには、技術的な課題や社会的な課題が山積しています。しかし、課題の解決に向けた取り組みを関係者が重ねているのもまた事実です。今後の技術の進歩や法整備に注目しましょう。

今後も当メディアでは、自動運転やEVなどのモビリティなどに関するニュースをまとめて発信していきます。最新情報が気になる場合は、ぜひ定期的にチェックしてみてください。

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