自動運転のレベル5はいつ実現する?主要国の現状や課題を徹底解説
更新日: 2025/11/4投稿日: 2025/9/29
自動運転
「自動運転のレベル5って本当に実現するの?」
「完全自動運転の車が買えるのはいつ頃なんだろう?」
自動運転レベル5が実現すれば、運転から完全に解放され、移動時間を仕事や娯楽に活用できる社会が到来します。
しかし2025年11月現在、レベル5の市販車は世界中に存在せず、「本当に実現するのか」「無理なのではないか」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。
この記事では、自動運転レベル5の実現可能性について、各国の最新動向と技術的課題を踏まえて解説します。
この記事でわかる内容は以下のとおりです。
- 自動運転レベル5の定義と他レベルとの明確な違い
- 日本・中国・米国・欧州における実現目標と最新の進捗状況
- 主要メーカー別の開発状況(トヨタ・テスラ・BMW等)
- 「無理」と言われる理由と本当の実現可能性
- レベル5実現に向けた5つの課題と解決への道筋
自動運転のレベルとは?0~5それぞれの概要を解説

自動運転技術は、米国の自動車技術会(SAE International)が2016年に策定した国際基準「J3016」により、運転の自動化度合いに応じて0から5までの6段階に分類されています。
日本でも2018年に自動車技術会が発表したJASO TP18004(日本語訳版)に準拠し、世界共通のフレームワークとして運用されています。レベル5を理解するには、まず各レベルの定義を正確に把握することが重要です。
以下の表に、自動運転レベル0から5までの詳細をまとめました。
| レベル | 名称 | 運転の主体 | システムの役割 | 実用化状況 |
|---|---|---|---|---|
| レベル0 | 運転自動化なし | ドライバー | 警告・情報提供のみ | 一般的な車両 |
| レベル1 | 運転支援 | ドライバー | ハンドル操作または加減速のどちらか一方を支援 | 普及済み |
| レベル2 | 部分運転自動化 | ドライバー | ハンドル操作と加減速の両方を同時に支援 | 市販車で普及 |
| レベル3 | 条件付運転自動化 | システム(条件付き) | 特定条件下でシステムが運転、緊急時は人間が対応 | 限定的に実用化 |
| レベル4 | 高度運転自動化 | システム | 特定条件下でシステムが全ての運転を完結 | 実証実験段階 |
| レベル5 | 完全運転自動化 | システム | あらゆる条件下でシステムが全ての運転を実施 | 未実用化 |
レベル2
レベル2は運転支援」に分類され、運転の主体はあくまで人間(ドライバー)です。
ドライバーは常に道路状況を監視し、いつでも運転操作を引き継げる状態を維持する法的義務があります。
現在の市販車に搭載されている「車線維持支援」や「アダプティブクルーズコントロール」は、このレベル2に該当。レベル3以降が本来の「自動運転」と呼ばれ、システムが運転の主体となります。
レベル3
レベル3では、高速道路など特定の条件下でシステムが運転を担当し、ドライバーは前方から目を離す「アイズオフ」が可能です。
ただし、システムが対応できない状況になった際には、十分な時間的余裕をもって人間に運転を引き継ぎます。
レベル4
レベル4では、特定の条件下(ODD:運行設計領域)であればシステムがすべての運転操作を完結し、人間の介入は不要です。
例えば、決められたルートを走行する自動運転バスや、特定エリア内を走行する自動運転タクシーがレベル4に該当します。
万が一システムが対応できない状況が発生した場合は、安全な場所に自動停車する「ブレインオフ」機能を備えています。
レベル5
レベル5は「完全自動運転」と呼ばれ、場所・天候・道路状況・時間帯に関係なく、あらゆる環境下でシステムが全ての運転タスクを実施します。
ドライバーが運転に関与する必要は一切なく、ハンドルやペダルといった運転操作装置すら搭載不要となる究極の自動運転段階です。
車内は完全に自由な空間となり、テレビ視聴や会議、睡眠など、まるで移動する居住空間のような使い方が可能になります。
2025年11月現在、レベル5を実現している市販車は世界中に一台も存在しません。
各国の自動車メーカーやテクノロジー企業が研究開発を進めていますが、技術的・法的・社会的な障壁が多く、実用化にはまだ相当の時間を要する見込みです。
2025年現在の自動運転車の開発状況とは

2025年11月時点での自動運転の開発状況について、市販車と実証実験の両面から現状を整理します。
一般消費者が購入できる市販車の最高レベルは、レベル2の運転支援機能です。
日本国内では、トヨタ・日産・ホンダ・マツダ・スバルなどが販売する車種に、以下のようなレベル2機能が標準装備またはオプション設定されています。
- 車線維持支援システム(LKAS)
- 全車速追従機能付きアダプティブクルーズコントロール(ACC)
なお、2021年3月にホンダが世界初のレベル3機能「トラフィックジャムパイロット」を搭載した市販車「レジェンド(Honda SENSING Elite)」を発売しました。
これは高速道路の渋滞時に限定して、システムが運転を引き受ける画期的な技術です。しかし、レジェンドは限定100台のリース販売に留まり、2022年に生産を終了しています。
そのため、現在新規に入手できる市販車はレベル2が最高水準です。
一方、市販車ではない分野では、特定エリアでの実証実験や限定的な商用運行により、レベル4の自動運転車が実際に稼働しています。
中国や米国の一部都市では、レベル4の自動運転タクシー(ロボタクシー)が実際に乗客を乗せて有償運行を行っており、累計で数百万回以上の乗車実績を積み重ねています。
日本国内では、2023年4月の改正道路交通法施行により、レベル4の自動運転が法的に認められました。
福井県永平寺町では、自動運転レベル4の7人乗り電動カート「ZEN drive PILOT(ゼンドライブパイロット)」が約2kmの区間で定常運行を開始しており、地域住民の移動手段として活用されています。
また、茨城県境町では自動運転バスが路線バスとして運行するなど、限定エリア内での実用化が着実に進展しています。
レベル5の実現はまだ見通しが立っていませんが、その前段階となるレベル4については、世界各国で実証から実装へと移行する段階です。
自動運転のレベル5はいつ実現する?主要国の進捗を紹介

自動運転レベル5の実現時期について、主要国・地域の公式ロードマップと最新の開発状況を確認していきましょう。
レベル4でさえ限定的な普及段階にあるため、レベル5の全面的な実用化は2030年代後半から2040年代になる可能性が高いと専門家の間では見られています。
実際、Google系Waymoの元CEOであるジョン・クラフチック氏も「完璧な自動運転は実現しない」と公言しており、多くの専門家が慎重な見方を示しているのです。
ただし、一部の国や地域ではレベル5に関する具体的な目標を掲げており、技術開発も着実に進んでいます。以下では、日本・中国・米国・欧州における最新の進捗状況を詳しく見ていきましょう。
日本:2027年に公道実験を開始予定
日本では、2027年に横浜市で開催される「国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)」において、レベル5の実証実験を実施する計画が発表。
政府が策定した「官民ITS構想・ロードマップ 2023」では、自動運転の段階的な実現目標が以下のように設定されています。ただし、このロードマップではレベル4までの計画が示されており、レベル5については具体的な時期や目標の記載がありません。
| 目標年度 | 区分 | 目標内容 |
|---|---|---|
| 2025年目途 | 自家用車 | 高速道路における自動運転レベル4の市場化 |
| 2025年以降 | 物流サービス | 高速道路でのトラック隊列走行・自動運転レベル4の実現 |
| 2025年目途 | 移動サービス | 限定地域における無人自動運転移動サービス(レベル4)の全国展開 |
2025年現在、高速道路でのトラック自動運転実現に向けた実証実験が積極的に進められています。
例えば、物流大手のT2(ティーツー)と三菱地所は2025年に共同で、自動運転トラックによる物流施設内での完全無人走行実証に成功しました。
新東名高速道路では、複数の物流企業が参加する大規模な隊列走行実験も実施されており、2026年以降の商用化を目指しています。
詳しくは以下の記事で説明しているのでご確認ください。
レベル4に関する計画は着実に進行しているため、2027年に予定されているレベル5実証実験も期待が持てます。
ただし、実証実験の成功から一般消費者への普及までには、安全性検証・法整備・インフラ整備などを含め、さらに10年から20年程度の期間を要すると見込まれています。
中国:2030年までに新車販売の10%をレベル4~5相当にする予定
中国政府が2015年に発表した国家戦略「中国製造2025」では、2030年までに新車販売台数の10%をレベル4~5相当の高度自動運転車にするという野心的な目標が掲げられています。
中国が自動運転で優位に立てる理由の一つは、「ジュネーブ道路交通条約」や「ウィーン道路交通条約」に批准していないことです。
そのため、国際的な交通規則との調整なしに、国策として自動運転や電気自動車(EV)の開発に注力できる環境にあります。
2025年には世界初となる完全無人のレベル4自動運転レンタカーサービスが北京市と深圳市で開始されました。利用者はスマートフォンアプリで車両を呼び出し、無人車両で目的地まで移動できます。
また、中国IT大手の百度(Baidu)が運営する自動運転タクシー「萝卜快跑(Apollo Go)」は、2025年9月時点で累計乗車回数が800万回を突破しました。
さらに百度はUber Technologiesと戦略的提携を結び、数千台規模の自動運転車両を世界各都市に展開する計画を進めています。
中国国内の複数都市では、レベル4の自動運転バスが50両以上導入され、市民の日常的な移動手段として定着しつつあります。
「中国製造2025」の発表から既に10年が経過しているため、現時点での詳細な進捗評価は必要ですが、実証実験の規模と実用化のスピードから判断すると、中国はレベル5の実現に最も近い国の一つと評価できます。
特に政府主導のインフラ整備と規制緩和が迅速に進む点が、他国と比較して大きなアドバンテージです。
米国:国としてのレベル5に関する言及はない
米国連邦政府は、現時点ではレベル5の実現目標や具体的な実用化時期を公式に発表していません。
2017年に連邦法として自動車メーカーに安全性評価証明書の提出義務や連邦自動車安全基準の見直しが提案されましたが、レベル5の完全自動運転に関する記述も含まれており、法整備の先行きは不透明な状況です。
また、州ごとに規制が異なるため、実用化の時期については未定となっています。
ただし、自動運転技術の開発水準では依然として世界トップクラスを維持しており、民間企業主導で開発が進められています。
Google系列のWaymo(ウェイモ)は、2018年にレベル4の自動運転タクシーサービス「Waymo One」をアリゾナ州フェニックスで商用開始し、2020年には完全無人運行を実現しました。
2025年現在、サンフランシスコ、ロサンゼルス、フェニックスの3都市で24時間365日営業のロボタクシーサービスを提供しており、累計乗車回数は200万回以上に達しています。
また、General Motors傘下のCruiseも、サンフランシスコで無人タクシーサービスを展開していました(2023年に一時停止後、2025年に再開予定)。
連邦政府の公式目標はありませんが、テスラのイーロン・マスクCEOがレベル5の実現を公言しており、注目を集めています。
現状のテスラ車に搭載されている「Full Self-Driving(FSD)」はレベル2相当の運転支援機能ですが、AIによる画像認識技術と膨大な走行データの蓄積により、将来的なレベル5実現に向けた基盤構築を進めています。
ただし、当初マスク氏が予告していた実現時期(2020年頃)は大幅に遅れており、慎重な見方も必要です。
米国の強みは、民間企業の技術開発力と資金力にあります。州ごとに規制が異なるため柔軟な実証実験が可能であり、カリフォルニア州などでは自動運転に好意的な法整備が進んでいます。
欧州:2030年にレベル5を一般化するというロードマップあり
欧州連合(EU)が2018年に発表した「欧州自動運転戦略」では、2030年にレベル5の自動運転が標準化された社会を実現するという明確なビジョンが示されています。
EU全体で自動運転技術の開発と普及を推進し、域内の統一的な法整備を進める方針です。
2020年代にまず都市部で低速での自動走行を実用化し、2030年代までには完全自動運転を導入する段階的なアプローチを採用。
2025年現在、フランスのパリ郊外や南部の都市で、レベル4の自動運転バスの実証実験が実施されています。
特に注目すべきは、ノルウェーのオスロとオランダのアムステルダムで運行されている自動運転バス「e-ATAK」です。これらの車両は実証段階を超え、市民が日常的に利用できる公共交通機関として定着しつつあります。
ドイツでは自動車メーカーのBMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンがそれぞれレベル4以上の技術開発に注力しています。
特にメルセデス・ベンツは、「DRIVE PILOT」というレベル3システムを「Sクラス」と「EQS」に搭載しており、2027年頃までにレベル5の実用化を目指す計画を発表。
BMWも「5シリーズ」と「7シリーズ」にレベル2システムを搭載し、2025年から2026年にかけて高速道路でのレベル4機能を市販車に搭載する計画を進めています。
2018年のロードマップ策定から7年が経過した2025年時点での進捗は、レベル4の実証・実装においては順調と評価できます。
しかし、2030年までにレベル5を標準化するという目標達成には、さらなる技術革新、法規制の統一、インフラ投資の加速が不可欠です。特にEU加盟各国間での規制調和が重要な課題となっています。
主要メーカー別の自動運転レベル5開発状況

世界の主要自動車メーカーとIT企業が、自動運転レベル5の開発競争を繰り広げています。各社の開発状況と戦略を詳しく見ていきましょう。
トヨタ自動車:慎重な段階的アプローチ
トヨタ自動車は、レクサス「LS」を含む多くの車種にレベル2の自動運転システム「Toyota Safety Sense」を搭載。
レベル5に関する具体的な実現時期の発表は行っていませんが、富士山麓に建設中の実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」において、実環境での技術検証を進めています。
トヨタは安全性を最優先とする慎重な姿勢を取っており、段階的な技術向上を目指しています。
テスラ:積極的な開発姿勢
テスラは「Full Self-Driving(FSD)」というレベル2の運転支援システムを「モデルS」「モデル3」「モデルX」「モデルY」など全車種に搭載。
イーロン・マスクCEOはレベル5の実現を繰り返し公言しており、2019年には「オートパイロット3.0」と完全自動運転対応チップを発表しました。
EVによるロボタクシー事業の開始も計画されていますが、当初の予定よりも実現時期は遅れています。
BMW:2020年代後半の実現を目標
BMWは「5シリーズ」と「7シリーズ」にレベル2の自動運転システムを搭載しています。
かつて2021年にレベル5の実用化を目標に掲げていましたが、現実的には計画が後ろ倒しです。
現在は2025年から2026年にかけて、高速道路でのレベル4機能の市販車搭載を優先しており、レベル5については2020年代後半の実現を見込んでいます。
メルセデス・ベンツ:2027年目標を公表
メルセデス・ベンツは、「Sクラス」と「EQS」にレベル3システム「DRIVE PILOT」を搭載し、条件付き自動運転を実現。
また、「Sクラス」や「Eクラス」にはレベル2システムも搭載されており、段階的に技術を向上させています。
2027年頃までにレベル5の実用化を目指す計画を公表しており、欧州メーカーの中でも積極的な開発姿勢を示しています。
アウディ:先進的な技術開発
アウディは2017年に世界初のレベル3自動運転を実用化したことで業界に衝撃を与えました。
各国の法整備の遅れにより普及は限定的でしたが、技術力の高さを証明。
レベル5については、かつて2020年から2021年に高速道路での実用化を目標としていましたが、現在は計画を見直し、より現実的なタイムラインで開発を進めています。
GM(クルーズ):大規模なデータ蓄積
General Motors(GM)は、傘下のCruise社を通じて、シボレー「ボルトEV」をベースにした完全自動運転車の公道実証実験を大規模に実施しています。
他社を圧倒する規模でのデータ蓄積が強みであり、サンフランシスコでの無人タクシーサービス(2023年一時停止後、2025年再開予定)を通じて、実用化に向けた知見を積み重ねています。レベル5の具体的な目標時期は示されていませんが、技術的基盤は着実に構築されています。
Waymo(Google):AIを活用した独自アプローチ
Google系の自動運転開発企業「Waymo」は、他の自動車メーカーとは異なるアプローチを取っています。
GoogleのAI技術を活用し、完全自動運転の実用化に特化した開発を進め、2018年から自動運転配車サービス「Waymo One」の商用運行を開始しており、累計200万回以上の乗車実績を誇ります。
レベル4での実績を基に、将来的なレベル5実現に向けた技術開発を継続中です。
日産自動車:プロパイロット技術の進化
日産自動車は「ProPilot 2.0」と呼ばれるレベル2の自動運転技術を、「日産アリア」「セレナ」「スカイライン」などの車種に搭載しています。
レベル3の実証実験も頻繁に行っており、完全自動運転の走行実験も目指していますが、レベル5の具体的な実現時期については未定です。現在はレベル4技術の確立を優先しています。
ホンダ:世界初のレベル3市販化の実績
ホンダは2021年に世界初のレベル3機能を市販車に搭載した実績を持ちます。
「ヴェゼル」「N-BOX」「フリード」などに「Honda SENSING」を搭載し、レベル2の技術を広く普及。
レベル5については具体的な時期を公表していませんが、レベル3での経験を活かした段階的な技術向上を進めています。
自動運転レベル5は「無理」なのか?実現可能性を検証

「自動運転レベル5は無理なのではないか」という疑問を持つ方も多いでしょう。この章では、技術的な実現可能性について詳しく検証します。
完全自動運転の技術的ハードル
完全自動運転を実現するには、現在の技術水準を大きく超えるブレイクスルーが求められます。
特定エリアのみを走行するレベル4でさえ、高精度3次元地図の活用や繰り返しの実証実験を経てようやく商用化に至っている状況です。
これをあらゆる場所・環境で運転操作を完全に任せられるレベル5へと拡張するには、未知の道路や状況でも安全に走行できるAIとセンサーが必要です。
例えば、以下のような極限状況でも人間と同等以上の判断ができる必要があります。
- 冬の凍結した峠道や未舗装の山道
- 区画線が消えかかっている地方の道路
- 歩行者や自転車が頻繁に飛び出す混雑した都市部
- 豪雨・豪雪・濃霧など視界が極端に制限される気象条件
- 緊急車両への道の譲り方など、暗黙のルールへの対応
そのためには、高度な物体検知・状況予測・倫理的判断力を備えたAIの搭載が不可欠であり、現状このレベルに到達している事業者は存在しません。
専門家の見解:「完璧な自動運転は実現しない」
実は、業界トップの専門家でさえ、レベル5の実現には慎重な見方を示しています。
Google系Waymoの元CEOであるジョン・クラフチック氏は、「完璧な自動運転は実現しない」と公言しており、多くの専門家が2040年代以降の実現を想定。
この発言の背景には、以下のような理由があります。
- 路面環境、天候、場所、交通状況など、複雑で変則的な状況を予測するには、気の遠くなるようなサンプルデータの収集と分析が必要
- 稀にしか起きない「エッジケース」への対応が極めて困難
- 技術進化に加え、社会制度・法整備・倫理的合意も不可欠
それでもレベル5を目指す意義
では、「無理」なのかというと、そうとも言い切れません。
まだ誰も到達できていない領域だからこそ、どの企業にもビジネスチャンスがあるとも言えます。
AI技術の指数関数的な進化、量子コンピューターの実用化、6G通信の登場など、今後のテクノロジーの発展により、現在「不可能」と思われることが可能になる可能性は十分です。
実際、レベル4の実現でさえ、10年前には「夢物語」とされていましたが、今では複数の都市で商用運行されています。
レベル5は確かに困難ですが、「無理」ではなく「まだ実現していない」と捉えるべきでしょう。
特にIT・クラウドサービス企業にとっては、レベル4からレベル5への移行期において、データプラットフォーム構築やセキュリティ対策など、多くの事業機会が存在します。
自動運転レベル5の実現に向けた5つの課題

自動運転レベル5を実現するためには、解決すべき複数の技術的・社会的課題があります。ここでは、特に重要な5つの課題について、具体的な問題点と現在の取り組み状況を詳しく解説します。
1. 技術面の改善:AIとセンサーの高度化
レベル5を実現するには、現在レベル4で使用されているセンサー技術とAIの判断能力を大幅に向上させる必要があります。
現在の自動運転システムは、カメラ・レーダー・LiDAR(光による距離測定センサー)などの複数のセンサーで周囲360度の状況を認識し、AI(人工知能)が膨大なデータを処理して運転判断を下しています。
レベル4では、天候が良好で道路状況が整備された限定環境下において高い精度を発揮していますが、レベル5にはさらに高度な認識・判断能力が必要です。
予期せぬ事象や統計的に稀な事例(エッジケース)においても、人間のドライバーと同等以上に適切な判断ができることが、完全自動運転の実現には不可欠です。
例えば、以下のような複雑な状況での対応が大きな課題となっています。
- 道路工事により一時的に変更された通行ルートや仮設信号への対応
- 警察官や交通誘導員による手信号での交通整理の認識と従順な対応
- 路上に落下している予想外の障害物(倒木、落下物、動物の飛び出し)の回避
- 濃霧・豪雨・吹雪など視界が極端に悪化した気象条件での安全走行
- 歩行者や自転車の突然の飛び出しや予測困難な動きへの瞬時の対応
- 逆走車や信号無視車両など、他の車両の違反行為への回避行動
特に日本国内では、欧米と比較して道路幅が狭く、複雑な交差点や見通しの悪いカーブが多いという環境的特性があります。
対向車とのすれ違いでは数センチ単位の精密な制御が必要であり、住宅街の細い路地では歩行者との接近回避判断が頻繁に求められます。
さらに、日本は世界で約35カ国しかない左側通行の国であり、海外で開発されたシステムをそのまま導入できません。
右折時の優先関係や道路標識の配置など、交通ルール自体が異なるため、日本固有の走行環境に最適化したAIの学習が必須です。
これらの課題を解決するには、数億キロメートル規模の実走行データ収集と、膨大なシミュレーションが必要です。
現在、各社は仮想空間上で様々な交通状況を再現し、AIに学習させる「デジタルツイン」技術の開発を進めています。
2. インフラ整備:道路環境の最適化
自動運転レベル5の実現には、従来の手動運転時代には必要とされなかった道路インフラの大規模な整備・更新必要です。
例えば、白線が経年劣化で消えかかっている道路や、樹木の枝葉で隠れてしまっている道路標識は、人間のドライバーであれば経験と状況判断で対応可能です。
しかし、AIシステムにとっては認識困難な状況となり、誤った判断につながる可能性があります。
そこで、AIがスムーズかつ正確に判断できるよう道路環境を最適化するか、センチメートル級の精度を持つ高精度3次元地図(ダイナミックマップ)の整備が必要です。
ただし、日本全国の道路網を整備・更新するには、数兆円規模の予算と10年以上の期間を要すると試算されています。
必要とされる主なインフラ整備の内容は、以下のとおりです。
- 道路の白線(区画線)と標識の定期的な更新・鮮明化(視認性向上)
- 自動運転車専用レーンまたは混在交通を考慮した道路設計の導入
- センチメートル級精度の高精度3次元地図の全国整備とリアルタイム更新システム
- 信号機との通信システム(V2I:Vehicle to Infrastructure)の構築
- 5G/6G通信網の整備による車両間通信(V2V:Vehicle to Vehicle)の実現
- 悪天候時の視認性を補助する路側センサーの設置
- 事故多発地点における歩行者・対向車情報の送信技術
- GPSが届かないトンネルや地下での位置情報取得技術
特に高精度3次元地図は、道路工事や新規開発により日々変化する道路状況をリアルタイムで反映する必要があります。
そのため、地図会社・自治体・建設会社が連携し、常に最新情報を共有できるクラウドベースのデータプラットフォームの構築が進められています。
日本全国の約128万kmに及ぶ道路網をカバーするには、国・自治体・民間企業が長期的かつ戦略的に連携が必須。
国土交通省は「道路インフラDX」の一環として、自動運転対応のインフラ整備計画を段階的に進めています。
3. サイバー攻撃への対応:セキュリティリスク
AIを活用した自動運転システムは、クラウドサーバーとの常時通信や、車両間通信(V2V)、路車間通信(V2I)など、ネットワーク接続が必要不可欠です。
しかし、ネットワークに接続する以上、サイバー攻撃のリスクが常に存在します。
サイバー攻撃を受けた自動運転車両が誤作動を起こし、意図しない危険運転を行う可能性は否定できません。
最悪のシナリオとして、悪意ある第三者による遠隔操作で意図的に事故を引き起こされるリスクも想定されます。
実際に2015年には、米国で研究者がFiat Chrysler社の車両に対してハッキング実験を行い、遠隔からブレーキやステアリングを操作できることを実証し、大きな衝撃を与えました。
自動運転車に対する主なサイバー攻撃のリスクは、以下のとおりです。
- 車両制御システムへの不正アクセスによる遠隔操作
- センサーデータの改ざんによる誤認識の誘発(なりすまし攻撃)
- 通信ネットワークへの割り込みによる偽情報の送信
- 大規模なDDoS攻撃によるクラウドサービスの停止
- ランサムウェアによる車両機能の停止と身代金要求
- ハッキングによる意図的な事故の誘発
これらのリスクに対応するため、自動車業界では「多層防御」の考え方に基づいたセキュリティ対策が進められています。具体的には、以下のような技術が導入されつつあります。
- エンドツーエンドの暗号化通信による盗聴防止
- ブロックチェーン技術を活用したデータ改ざん検知
- AIによる異常な通信パターンの自動検出
- 車両システムの定期的なセキュリティアップデート(OTA:Over The Air)
- 物理的に分離された制御システム(セーフティドメインとセキュリティドメイン)
国際的には、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)が2021年に「サイバーセキュリティ規則(UN-R155)」を制定し、2024年7月以降に販売される新型車は同規則への適合が義務化されました。
日本もこの規則を国内法に取り入れており、自動車メーカーには継続的なセキュリティ管理体制の構築が求められています。
レベル5の自動運転が実現し、人間の介入なしで車両が走行する時代には、サイバーセキュリティは安全性と同等に重要な要素となります。
技術開発と並行して、法規制の整備と国際的な協調体制の確立が急務です。
4. 法整備と事故責任の所在
レベル5の自動運転では、ドライバーが存在せず、すべてシステムが車両を操作・制御します。
そのため、事故が発生した場合の責任の所在を明確にする必要があります。人ではなくシステムが事故を起こした場合、誰が責任を取るのかという根本的な問いに答えなければなりません。
想定される責任の所在の候補は、以下のとおりです。
- 自動車メーカー(車両の製造者)
- ソフトウェア開発企業(AIシステムの提供者)
- 地図会社(高精度地図の提供者)
- 通信事業者(ネットワークインフラの運営者)
- 車両の所有者または利用者
さらに複雑なケースとして、以下のような状況も想定されます。
- ハッキングによる事故:サイバー攻撃を受けて事故が起こった場合の責任
- 通信障害による事故:地図情報やインフラ情報の通信障害が原因の場合
- AIの判断ミス:学習データに含まれない稀なケースでの誤判断
- 倫理的ジレンマ:避けられない事故で「誰を守るか」の選択
日本では、2020年4月の改正道路交通法によりレベル3の自動運転が解禁されましたが、レベル5となるとさらなる法改正が必要です。
また、日本が批准する国際的な道路交通条約である「ジュネーブ道路交通条約」では、運転者の存在を前提としているため、レベル5を実現するには条約の改正または新たな解釈が求められます。
あらゆるケースを想定した補償制度や保険制度の整備も不可欠であり、法律・保険・技術の専門家が連携して制度設計を進める必要があるのです。
5. 5G/6Gなど通信インフラの整備
自動運転レベル5の実現には、超高速・低遅延の通信インフラが不可欠です。
2020年3月から携帯電話各社が5Gサービスの提供を開始しましたが、2025年現在でも都市部を中心とした限定的なエリアにしか電波が届いていない状態です。
4Gと比較すると、5Gは通信速度が20倍、同時接続デバイス数が10倍になるとされる超高速通信ですが、車両が走行するあらゆるエリアを広くカバーする必要があります。
自動運転における通信インフラの重要性は以下のとおりです。
- 車両間通信(V2V):走行する車両同士が通信することで衝突防止や協調走行が可能に
- 路車間通信(V2I):信号機や道路標識との通信で最適なルート選択
- 歩行者検知:歩行者が持つスマートフォンと通信して危険を事前に察知
- ビッグデータ通信:センサーやカメラで収集した膨大なデータをクラウドでAI解析
特に車両は高速で移動するため、通信のタイムラグ(遅延)が発生すると事故につながる危険性があり、5Gの低遅延特性(約1ミリ秒)は、自動運転の安全性向上に大きく貢献します。
さらに、将来的には6G通信(2030年代の実用化目標)により、遅延がほぼゼロに近い「超低遅延通信」が実現すると期待されています。
ただし、日本全国の道路をカバーする通信インフラの整備には、莫大な投資と長期間の取り組みが必要です。特に地方部や山間部での電波カバレッジの確保が課題となっています。
自動運転レベル5の実現はまだ先だが、確実に近づいている

各国のロードマップや現在の開発状況を総合的に見ると、自動運転レベル5の完全な実用化は2030年代後半から2040年代になる可能性が高いと考えられます。
主要国の焦点は現在、レベル4の社会実装と普及に向けられており、レベル5については実証実験段階。
しかし、実現にはまだ時間を要するものの、技術は確実に進歩しており、レベル5実現への道筋は見えつつあります。
さらに、6G通信技術の開発により、遅延がほぼゼロの車両間通信が実現し、より安全で効率的な自動運転が可能になると期待されています。
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